パチンコアルバイト奮闘記


2000年10月。パチンコのことなど何1つ知らない自分が、パチンコのホールバイトを 始めた。何しろ、数年前までパチンコが金になるとは知らなかったほどである。煙草や菓子 や子供のための玩具をもらって何が面白いのだと、本気で思っていた。今時こんな世間知ら ずも珍しい。そんな自分が、なぜパチンコのバイトを始めたのか。理由は簡単(単純)であ る。その時まじめに大学生をしていた自分が、バイトに割ける時間は授業の後、夕方からで ある。20時くらいで閉まってしまうような店では、1日あたりの稼ぎが少ない。24時く らいまで働けて、時給がよくて、特に頭を使わないし、それほど大変じゃなかろう(この考 えが甘かった!)と始めたわけである。その前は家庭教師をやっていた。こちらのほうが稼 げるのではと思うだろうが、1日90分(中学生)、1週間に2回では効率が悪い。しかも、 そのとき教えていた生徒の家までは、車で片道1時間かかっていた(その分交通費はたくさ ん頂いた)。はじめは夏休みから少しだけ、短期でやろうと思っていたパチンコバイト。日 曜日に新聞に折り込まれる求人広告を手に、時給がよくて家から近い店を中心に電話をかけ まくったが、どこも短期は要らないという。仕事を覚えた頃に辞められても困るそうだ。ご もっとも。諦めて、長期やります、とかけ直した。最初に面接に行った店は、できたばかり で新しく、広いし時給もよい。さらに、未経験者に限る、とある。いざ面接。幼い頃に入っ たことはあったようだが、パチンコ屋に入るのは初めて同然。第一印象は、うるさいの一言 に尽きる。「面接に来たんですけど」と怒鳴っても聞き返された。軽く面接をした後、性格 テストをやった。マークシート、100問。「人前で話すのは得意だ」「はい/いいえ/わか らない」といった感じ。結果は電話で伝えると言われ、待つこと数日。性格テストがまずい のか、パチンコを打ったことがないと言ったのがまずかったのか、不採用と言われた。甲府 市内、パチンコホールはたくさんある。すぐさま次の店に電話をかける。


2店目にして採用された。自分は正直にパチンコをやったことがないと言ったが、その店は 人員不足で、誰でも採用するらしい。時給は他店より低く、1000円。昇給はないと言わ れた。結局学校が終わって食事してから働くと、19時から24時まで。1日5000円。 土日は学校がないからちょっとやる気を出して18時から。勤務時間と制服のサイズなどを 決めた。その日は面接だけで帰り、次の日は3時間。1時間マニュアルを見ながら社員に基 本作業を教わる。しつこいようだが、パチンコ未経験の自分。相次ぐ専門用語にたじたじ、 であった。「大当たり」って何?。「確変」って何?。「アタッカー」ってどこ?。「ヘッ ドランプ」?「フラッシュ」?。そもそも、パチンコって、どうやって打つの?。まあとり あえずホールに出ましょう、と社員の行動を見て学ぶ。基本動作は、「大当たりしたら青ラ ンプが光るので、お客様のところに行って「おめでとうございます」と言い、箱を交換する」。 これだけなら問題はない。まだ最初だから、箱が一杯ではないのに交換してしまったりする が、それは大した問題ではない。問題は赤ランプだ。客が何かあるとボタンを押して店員を 呼ぶ。行くまで何事かわからないから、初めは恐かった。客がボタンを押した理由。@箱が 一杯だから空箱をくれ。A箱が空になったから後ろの箱を乗せろ。Bパッキーカード買いた い(店員が常に3000円のカードを身につけているので、販売機に並んで買うより早い)。 C煙草or飲み物を買ってこい(店内では、玉でしか買うことができない)。D盤面に玉が引 っかかっているから取れ。E玉が出てこない。F台を移動したい。G食事に行く(食事中の 札を台に置いておく/持ち玉はそのまま)。H食事から帰ってきたから札をどけて。I玉が少 ないから上のフラッシュ消せ。Jもうやめる。客はこういう理由で店員を呼ぶ。赤ランプが 点いたら走っていってランプを消し、「どうかなさいましたか?」と対応するのだが、消し 忘れるとあちこちから店員が集まってくるので迷惑をかける。すぐ消そう。入りたての頃は 要領が分からず、客は無言もしくはジェスチャー(死語)で訴えるので、何を求めているの かわからずに指示を待っていることが多かった。すると客は機嫌を損ねて「箱だよ箱!」と 怒鳴ってくる。煙草を吸わない自分は、煙草の銘柄に弱く、頼まれて持っていったものの 「これじゃない」と突き返されたこともあった。一度、烏龍茶を持っていったら、フロンテ ィアの聞き間違えだった。同じマイルドセブンでもライト、スーパーライト、エクストララ イト、ワン、と数種あり、「ボックスじゃない奴」とか「何でもいいから軽いの」とか言わ れることもたまにあり、戸惑う。マルボロメンソール、フィリップモリス、キャビンマイル ド、パーラメントライト、バージニアスリム、ショートホープ、ネクスト、セブンスター、 ハイライト。それぞれ玉数が違うので、ジェット(玉数え機)のところにある表を見ながら 客から預かった玉を流し、レシートを持ってカウンターに行き、商品と余り玉を客に渡す。 手間がかかる。


パッキーカードは3000円以外のものを頼まれると、結局他の客と同じように券売機で買 わなくてはならず、面倒。1万円渡されて「1000円1枚」、とか。パチンコやる人は仲 間意識が強いのか、常連同士で飲み物をあげたりしている。確変がくるとお茶やコーヒーを 4〜5本買い、「その人にあげて」と他の人に配ったりする。盤面に玉がかかることもよく ある。たまたま狭いところに玉が2個乗ってしまい、その上に次々玉が乗っていく様子は、 「ぶどうができた」と表現される。都合のいい位置に玉掛かりがあると客は黙っているのだ が、変な位置にできるとボタンを押して店員を呼ぶので、ガラスを開けて玉を取り除き、 「失礼しました」と言ってスタートチャック(チューリップ?)に1個玉を入れる。玉掛か りは客のせいではなく、店が悪いから、という事だ。パチンコ組合があるのだろうか、組合 の申し合わせにより、閉店時間は23時となっているが、持ち玉を景品に交換する作業も2 3時までに終わらせなくてはならない。そこで、打つのを22時45分にやめてもらい、確 変が残っている客には保証という作業をする。確変(確率変動)中の台はすぐに次の当たり が来るので、1回分の大当たりで出る分の玉をさっさと出してしまうもの。だいたい箱1杯 (2000玉くらい)になる。ところがどっこい、台によって残りの大当たり数が違うもの や、確変かと思いきや時短というものだったり、ガラスを開けて玉を流し込むのだが、他の 台と場所が違ったり、初めはなかなか覚えられなかった。その話は後程。すべての客を「あ りがとうございました」と一同礼して見送った後、閉店作業をやらなくてはならない。掃除 だけやってくれるバイトorパートもいるのだが、台を開けて設定を変えたり(バイトはでき ません!)イベントの旗を立てたり、スロットのメダルを磨いたり、カセット掃除をしたり、 使用済みパッキーカードを集めたり。僕は入ったときからずっと、「ポリ」の交換を任され た。まあ名称はどうでもよい。パチンコ玉と一緒に地下→屋根裏→台と流れる事によって玉 を磨くプラスチックの粒みたいなもの。それを毎日交換しなくてはならない。汚れたポリを 回収し、きれいなポリを充填する。汚れたポリは研磨剤洗浄機に入れて洗濯する。結構重労 働だった。まあ、客の知らないところで、裏で頑張っているんだよ、と言いたいだけです。 それぞれ、割り当てられた作業が終わると、バイトは23時55分、終礼のあと開放される。 ふう、疲れた。


僕が入った頃は「サンダーバード」という台があった。あのサンダーバードである。人気 がなかったのか、うちの店は狭いせいもあり、入れ替えが頻繁で、すぐに別の機種に変わ ってしまった。ああサンダーバードが…。古い機種もある。これらは、よく分からないが、 一旦外してしまうと二度と入れられないらしく、いわば動態保存(?)のように長い間置 いてある。具体的には「大工の源さん」と「バトルヒーロー」。少し前まで「冒険島」が あったのだが、ついに外された。源さんとバトルは確変大当たりの後、大当たりが2回来 る。保証の作業をする際に予め保証玉を作っておくのだが、保証玉を作るために確変中の 台のフラッシュの色を変えなくてはならない。確変中はトップランプの点滅の仕方が独特 なので分かりやすいのだが、時短も同じ点滅をする。時短がある台は確変中であるか時短 であるか、当たりが2回ある台は大当たりがあと1回なのかあと2回なのか判別しなくて はならない。台によって目印が異なり、初めは先輩に聞いてばかりいた。源さんは背景の 壁の色が黄色だと確変、水色だと時短。源さんはあと何回当たるかは、大当たり中しかわ からない。バトルは背景が緑だとあと1回、ピンクだとあと2回、白だと通常。「モンス ターハウス」という台もある。こちらは確変大当たりの後、当たりは1回なのだが、時短 がある。こちらは背景の月の周りの空の色で判断する。空がオレンジ色だと確変ゆえあと 1回当たる。緑だと時短だから保証はしない。青が通常。この3台は後輩に教える際にも 苦労した。ややこしい。他の台はトップランプの点滅で確変が判断でき、あと1回当たる とわかるので楽だ。これだけではない。「ギンギラパラダイスV」と「ミルキーバー」と いう現金機がある。この2台は、大当たり図柄に関係なく、当たったらあと2回当たりが 来る。3回の当たりで1セット。こちらはトップランプに表示される数字で判別できる。 大概は。今2回目の当たりならあと1回当たりますよ、と。現金機、及びCRギンパラは右 打ちをする台なので、他と遊戯方法が異なり、理解するまで時間がかかった。図柄が揃っ てもまだ当たりと決まったわけではなく、アタッカーの真ん中に玉が乗らないといけない のだから。他にどんな台があったかというと、「海物語」、「わんわんパラダイス」の2 台が長寿台、短命のものは「ウキウキフィッシング」「ワニワニパニック」「アレジン」 「お天気スタジオ」「セブンフラッシュ」「千両歌舞伎」が次々変わり、僕が去った4月 下旬に残っていたのは、前述の古い機種3種、現金機2種、海とわんパラの長寿台と「天 才バカボン」「フィーバー十二支」「和風彩祭」、そして最後に入ってきたのが、「ポク ポク坊主」…。後味が悪い。言っちゃ悪いがこの台はすぐに消えるさ。リーチ画面に女性 客から批判が出た。スロットもあるのだけど、僕はスロットコーナーに立った事がなく、 遊戯方法など分からないのでここでは書きません。パチンコバイトを始めてパチンコをや るようになったのか?。それを次に書きましょう。


従業員は社員とアルバイトからなり、アルバイトは大学生とフリーターに分けられる。 パチンコが好きで社員になったりアルバイトとして働く人も多いのだが、僕の他にも、 パチンコなど打ったことのない人が、アルバイトとして数人入ってきた。彼らも当然、 前述のように新出単語に悩まされるわけである。パチンコバイトを始めてしばらく経つ と、それぞれの台のリーチ画面を眺める余裕が出てくる。リーチ画面の面白さで客を集 めるのかもしれないが、僕が見た台の中で興味を持ったのは「お天気スタジオ」。ちょ っとやってみたいなあ、という気にさせた台である。「天才バカボン」もリーチ画面が 面白い。ただ、この台は閉店後、静まった店内に響く「おでかけれすか?」「これでい いのだ!」という効果音が耳障りである。一度パチンコをやってみようという気にはな った。面白そうだからとか、儲けようとかそういう考えではなく、パチンコに携わる自 分がパチンコのことを知らなすぎるのもマズイな、と思ってのことである。研修と思っ て3000円くらい使ってみようかなと先輩に話したら、「3000円じゃあすぐに終 わっちゃうよ」「3万くらい使わないと」と笑われた。そういや、客を見ていると皆バ ンバンつぎ込んでいる。皆さんどこにそんなお金があるのやら。そんなことを考えなが ら、月日は流れ、結局研修という名目でパチンコを打つ前に、幸か不幸か、仕事中に打 つ羽目になってしまった。それは「モンスターハウス」での出来事。客が大当たりした のでいつものように空箱を持っていって「おめでとうございます」と声をかけたところ、 「ちょっと持ってて!」と言われてハンドルを持たされた。その客の携帯電話に着信が あったようで、「僕、打ったことないんだけど…」と心配しつつ、アタッカーに入れれ ばいいことはわかっていたので、盤面を見ながら入れる努力をした。後で聞いた話、ア タッカーは入れようとして入れるものではなく、普通に打っていれば入るものだそうだ。 しかし初体験ゆえ緊張しまくっていた自分はハンドルを持つ手は硬くなり、目は台に釘 付け。冷や汗タラタラ。そこでハプニング。しばらくして玉が飛ばなくなった。上皿が 詰まったのかと思ったがいくら直しても玉が飛ばない。早く入れないとエラーになって しまう。パニックになっていると、隣のおじさんが「下皿の玉をかき出さなきゃ」とニ ヤニヤしながら教えてくれた。おお、そうか、と気づいたときには大当たりが突然終わ っていた。あれ、エラーと表示されないからいいのかな?。でもやけに早いなあ。と思 っていると電話が終わったおばさんが戻ってきて画面を見るなり「何やってんのっ!」 と怒鳴る。「パンクさせたんでしょ!」と続く。ああ、そうか。これがパンクと言うの か。すみませんと平謝りし、主任を呼んで出玉の保証してもらう。下皿が詰まると玉が 飛ばなくなることを初めて知った。これが初めてパチンコのハンドルを持ったときであ った。わずか数分。


客を見ていると面白い。いろいろな人がいる。絶好の人間観察の場である。上に書いた ように、奇妙な仲間意識(と同時にライバル意識もあるだろうが)があることが面白い。 常連同士、皆顔見知りであるようで話をしながら打っている。夫婦が多い。家族で来る 人もいる。うちの店は託児所がないから、赤ちゃんや小さな子は連れてこないように。 教育上良くないと思うぞ。親がパチンコに夢中になって、駐車場の車内の子供がどうの こうのという事件があってから、子供を連れて打ちに来ることを禁止するようになった。 子供を見掛けたら従業員一同目を光らせ、打ち始めたら注意しに行く。いつも夕方から ホールに立つのだが、以前早番として昼から夕方まで立ったことがあった。いつもと違 い、外が明るいのでなんか気が抜けてしまうが、客を見て驚いた。「夜と変わんないじ ゃん!」。彼らは、1日中パチンコをやっているのか。なんて暇な奴等だ。というか、 金持ち。呆れてしまいました。話を戻して、いろいろな客の例ですが、台を叩く人も多 い。機械トラブルの原因となりうるので、叩かないよう何度も放送をしているのだが、 叩けば止まると思い込んでいるらしく、口頭で注意してもやめない。叩いて図柄が揃っ たときは叩かなくても揃ったのだけどね。「台を叩かないでください」と注意したら 「今のは触っただけだ!」と言い返されたこともある。現金機及びギンパラは叩く人が 多く、実際に台のプラスチックが割れていることがあった。盤面のガラスを指でなでる 人が多い。おまじないだろうか、皆一生懸命指を擦り付けている。おしぼりの上に外国 のコインをのせて台の横に置いて打っている客もいる。調子の良いときは、箱を取り替 えると「ありがとう」などと声をかけてくれる人も、やはり当たらなくなると無口にな ってくる。機嫌が悪いのは見ていてわかるので、近づきたくない。箱1つに大体200 0玉入るのだが、山盛りにする客が多い。2500玉以上入れると上に箱を積もうとす るとこぼれる。交換と言われて運ぼうとすると、台車を使ってもこぼれる場合がある。 ある客は「いっぱい詰めていくら、とわかるから」と言っていたが、運びづらいのでや めて欲しい。箱の数は変わっても玉の数は変わりませんから。こぼれるよりはるかに良 いと思う。気さくに話し掛けてくれる客もいた。「今日7万円も使っちゃった〜」とお ばさんが話し掛けてきたり、玉で煙草など買うときに「マルボロとミルクティーと7 (図柄の7すなわち確変大当たり)ちょうだい」と言うお兄さんがいたり。「バカボン」 で「どうして俺の台だけ雨が降っているんだ」と言ってくるおじさんや、「海物語」で 「泡が出ねえ」と文句を言う人もいる。バイトに文句を言っても、従業員と親しくなっ ても、玉が多く出るようなことはない。そんなことは知っているだろうから、もう少し おとなしく打ってください。それから、煙草の灰、吸い殻をホールに落としていかない で欲しい。ちゃんと台には灰皿を置いてありますので。打つのに夢中で左手に持った煙 草の灰が落ちそうになり、「あー、落ちる落ちる」と思いつつ見ていることもあります けど。意地悪だから教えてあげないですよ。


パチンコアルバイトは面白いか。自分は、煙草が嫌い、煙草を吸う人が嫌い、ギャンブ ルが嫌い。店内は煙草の煙が充満し、BGMがうるさい。思っていたより仕事はきつい。 重い箱を運ぶだけでなく、台のごみを片づけたり買い物を頼まれたりする。閉店作業も 大変だった。こんな仕事、普通ならすぐに辞めていたと思う。以前警備のバイトをやっ たことがあった。一度やってみたかったという軽い気持ちと、小遣い稼ぎ程度の理由だ ったので1ヶ月と続かなかった。ところが、今回、自分には目標があった。目標、もし くは夢のために頑張るぞ、と自分に言い聞かせたことで、半年間続けることができたし、 幸い僕の勤めた店は、スタッフが良い人ばかりだった。パチンコのことを全く知らない 自分に1から丁寧に教えてくれた社員の皆様。後から入ってきたバイトの人に玉詰まり の直し方やフラッシュの点け方など教える一方、彼らからは接客態度などこちらが学ぶ こともあった。一身上の理由で、というか、まあ訳あってというか、半年続いたアルバ イトも4月下旬で終わりにした。少なくとも、お客様が快適にご遊戯できるように、そ して不正のないように見回ることというホールスタッフの仕事を経験し、接客の基本を 身につけることができたと思う。「パチンコホールスタッフなどという仕事を選んで、 この店で働いて、従業員や客と会えたのは、やっぱ運命なんだろうなあ」などと食事会 (飲み会)の写真を見ながら1人思うのである。それでもやはり、自分はパチンコは打 たない。

2001年4月25日










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